住職 干坂げんぽう
今年のゴールデンウィークも終わり、落ち着いた日々が戻ってきた。例年より一週間以上遅い新緑もようやく勢いを増してきた。
悠兮庵とヤマツツジ(5月16日) |
タッキー人気とかで、平泉の「義経東下り」行事(五月三日)は空前の人気で二十五万の人出だったという。旬の芸能人を一目見たいという心理は分からぬでもない。しかし、一関インターや平泉・前沢インターを出るのに四十分も掛かるとか、十五キロメートルにも及ぶ高速道路の渋滞等は予想されたはずである。平泉に時間内に到着できず、厳美渓温泉「いつくし園」に入浴して帰ったという仙台の団体もあったという。当人の身になれば笑えぬ話だろうが、誠に愚かなことである。
私たちは世の喧騒を離れ、悠兮庵の自然体験林で間伐、久保川トレッキングと自然を満喫した。参加者(二十二名)とスタッフ合計三十名で間伐した悠兮庵の林は、ハイイヌツゲに妨げられることなく散策できるようになった。
参加者は東京、横浜からが大半だが、北海道岩見沢市からの参加もあった。旅費の他、一万五千円の費用を支払ってのボランティアだから、他人様は物好きな通中と見るかもしれない。しかもハードな仕事を真面目にこなすため、手がしびれたり、足を引きずる人も出てくるほどである。それでも、否、それ故に「いつくし園」の温泉で身体をいやすのが最高の気分になる。その後の山菜を肴にしたビールも格別だ。
目的地に着く前の渋滞に費やす無駄な時間と疲れとは全く異なる体験が間伐だ。その作業をした人たちが去った二週間後、ヤマツツジは真っ赤な花を開いた。林床に光が届くようになったため、今年花芽を付けなかったヤマツツジも来年は咲き誇るであろう。
昨秋の間伐研修で茅を刈り払った所は、期待に背かずニッコウキスゲが葉を伸ばしている。六月初旬には見事な群落をなすであろう。里山に手を入れることは、日光の恵みを林床の植物たちに与えることである。その効果は一年後以降に現れる。センブリは二年草なので、出会いは大分先になる。間伐して日光を十分に受け止め始めた若葉が光る北限のザイフリボクとなると、花を咲かせるのは何時になるのだろうか。
咲き始めたニッコウキスゲ(6月3日) |
「而今の山水は、占仏の道現成なり」(正法眼蔵・山水記)のように、今、目の前にある自然を仏の真実の現れと見ることは、なかなか困難だ。しかし、木々や山野草の美しさの背景に、人為と口光の織りなす微妙な里山のあり方を知ると、得難い瞬間の出会いに思わず感謝したくなる。人と人との出会いだけが一期一会ではないのだ。
樹木葬通信 2005年5月20日発行 VOL.25より
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