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遠方より来たるもの


 住職 干坂げんぽう

 樹木葬墓地に共感する多くの人が一関や大迫を訪れると、必ず「朋有り 遠方より来たる また 楽しからずや」という『論語の 最も人口に膾炙(かいしゃ)している句が浮カぶ。。

 土地利用の面で国を挙げて採用しようとしている韓国からは 今年になって四グループが視察に来ている。まさに「遠方より来たる」という感がぴったりだ。オックスフォード大学から上智大学に研究員として来日しているボレー・セバスチャン(フランス人)も文化人類学研究のために一関に五日間滞在した。こちらも海を越えての訪問である。

クランボン広場の四阿(あずまや)

 しかし、多くの訪問者の中には、好ましい人ばかりがいるわけではない。かつては、散骨場なのに「樹木葬」を名乗り、地域住民とトラブルになり、散骨した人と裁判沙汰になっている民間団体のメンバーも見学に来ている。

 樹木葬墓地は儲かりそうだからと、寺院と結託した不動産業者なども偵察に来ている。そのうちのいくつかは、墓地として許可されている山の一画を「樹木葬墓地」と称して営業しているらしい。(井上治代氏の調査などによる)それらは墓石の代わりに樹木を植えるという表面だけを取り入れるが樹木を生き物と見ていないようだ。樹木の管理を墓地使用者にゆだねている所が多いらしい。墓石と違って樹木は生き物なので、成長し地域の環境を変えていく。地域の生態系に無関心では、樹木を植えることさえ、荒れた自然を作ることになりかねない。

 お金だけ入れば良いとして樹木葬の表面的な真似をしている人は、寺興しにとどまって、地域を考えない無責任な人といえる。私が行っている久保川流域のセイタカアワダチソウ駆除などをもっと真似してもらいたいものだ。

 好ましくない久保川流域への訪問者「遠方より来たるもの」は、理念が無く、地域づくりの情熱もない宗教者、業者だけではない。セイタカアワダチソウ、ハリエンジュ(ニセアカシア)、ハルジオン、ヒメジオン、アメリカセンダングサ、セイヨウタンポポ、ブタクサ、フランスギク、これら外来植物はもっと好ましくない。

 知勝院の施設があるクラムボン広場より上流は、まだまだ日本の在来種が多い地域なので、人間が少し手を貸してやれば、里山、里川の自然が保全される可能性が大である。このような自然のあり方に注目しないで、ユネスコの世界遺産指定ばかり騒いでいる地域があることへの疑問は樹木葬通信第二十六号で述べたところである。

 このように、樹木葬墓地の故郷一関地方で、生態系保全へかける実践は、なかなか顧みられないでいる。そんな中の六月三十日、保全生態学の鷲谷いづみさんが忙しいスケジユールの合間、クラムボン広場、曲淵の自然体験研修林、樹木葬墓地などを視察してくれることになった。やっと里山、里川保全に係わる人が来てくれるという思いで訪問が決定したときは喜びも一入であった。

 クラムボン広場では、鷲谷さんを師と仰ぐ(あるいは恋人に近い憧れを持つと言った方がよいか?)千葉喜彦氏が待ち受け、三人で周辺を視察した。寺用で忙しいため、しばらくぶりで訪れた広場になんと忌むべきアメリカセンダングサが群落をなしているではないか。私は同道しながらそれを抜き始めた。そうすると、鷲谷さんも抜き始めたのである。
しかも、私以上に熱心に。

 この時、私は今までになく実感として「朋遠方より来たる〜」という句を噛みしめたのである。(ただし、鷲谷さんを朋とするのは不遜とは思うが)



樹木葬通信 2006年7月20日発行 VOL32より




長倉山 知勝院
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