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東京の自然


 住職 干坂げんぽう

  昨年からNHK文化センターへおじゃまする機会が多い。仙台市、山形市、八王子市、さいたま市、郡山市と各センターの教養講座に続けて招かれたことは誠に光栄である。

 特に八王子教室では、支社長の小山芳郎氏がNHKのみならず、八王子の地域おこしに熱心なので、私も引き込まれ若干のお手伝いをする気になった。

 そのため、二回目の講義に上京した際、八王子に宿泊した。近い所の自然を探索してから、八王子の課題を見つめようとした。それが高尾山登山である。(会報31号に掲載)その時は急な計画にも拘らず、口コミで十数名が集まり、賑やかな登山となった。高尾山は古来信仰の山として著名であり登山者が多いものの、谷川のせせらぎとその立ち上る水分が豊かな植生を育んでいた。これなら色々な嗜好の登山者が満足できると感じた。


高尾山の登山
 その後、小山氏から勧められていた八王子城跡登山の機会がなかなか得られなかった。それで、九月下旬、ゲリラ的に厳しい日程の合間をぬって上京し、登ってみた。百名城の一つとの小山氏の触れ込み通り、城郭としては見事なものなのであろう。私は城郭史には全く疎いが、急峻な古道、かつては見晴らしが良かったと思われる環境、それらを勘案するなら、名城と称される所以は納得できるものがある。

 しかし、市民に慕われる憩いの場とするなら、現在の環境は十分とは言えない。頂上や途中の眺望は、元来素晴らしかったであろうが、植樹されたスギで視界が遮られている。頂上では、立川市や新宿などが見えるものの、山梨県側は全く視界が遮られている。全ての登山者を感激させるのは、眺望である。「山高き故に尊からず」で、1627メートルの須山岳が人気があるのも、360度の山頂のパノラマ風景あってのものである。筑波山が最近人気なのも同様であろう。

 次に登山者を呼び寄せる要素は、交通手段の便利さである。筑波山の人気も新しい交通手段に依るところが大きいと聞く。この点、八王子城跡は交通の便がすこぶる良い。その上登山に要する時間が約二時時間なので、ハイキングコース程度といえる。

 ところが、八王子城跡は高尾山に見られるような生態系の豊かさがない。行政と民間ボランティア団体などが協カして、間伐すれば林床に光が入り、山野草が復活することは目に見えている。今の状況では、家族でゆっくり自然を楽しむという気持ちにはなれない。
誠に残念なことである。

 このような所には、しばしば行政長の揮毫がある石碑が存在するが、八王子城跡も然りであった。何かを建てることばかりに熱心で、自然の豊かさなどには全く無関心な政治家が多い。行政に地域づくりを任せた市民も猛省するべきであろう。

 八王子市の視察は、東京の自然利用の貧弱さを理解させてくれた。知勝院は「他山の石」として、樹木葬墓地整備にこの経験を生かしたいと思う。



樹木葬通信 2006年11月10日発行 VOL34より




長倉山 知勝院
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