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冬に目立つもの


 住職 干坂げんぽう

 「東北の冬は暗い」は、かなり一般的なイメージとなっている。テレビの気象予報では、雪だるまの絵がしばしば東北地方に出る。したがって、冬に東北を訪れたことのない人がそう思うのもやむを得ない。

 石川さゆりの名曲「津軽海峡冬景色」や吉幾三の「雪国」は、青森県津軽地方の厳しい冬を歌っているので、そのイメージが東北地方全体にかぶさるのかもしれない。確かに寒気団が日本列島に押し寄せると一関地方も寒くなる。しかし、雪は少なく晴天の日が結構多いのである。

 最近の気象予報では、コンピューターのおかげで、時間ごとの降雪予報を出せるようになった。映像の威カは素晴らしく、雪雲が一関地方をほとんどの日、避けるように東に東に抜けていく様子を示す。須川岳が衝立(ついたて)なっていることが良く分かる。雪は奥羽山脈の切れ目である和賀川沿い(岩手県西和賀町から北上市へかけて)と鳴子峠から東に抜ける。ところがそれらの雪雲も、磐井川を挟み込むように連なってくる磐井丘陵に遮られ一関には入り込みにくい。さらに、昔は「台湾坊主」と言った太平洋岸をつたうように襲う低気圧は、北上高地が遮(さえぎ)ってくれ、一関では風の被害も少ない。

カラー電柱と庫裏の写真
カラー電柱と庫裏
   明るい日が多い上に、一関地方は落葉広葉樹地帯なので木々の葉が落ちた冬の林は見通しが良い。知勝院近くでは、シイタケ栽培をしている人が多いので、シイタケ菌を植えるため、コナラ中心の雑木林を残しているので、冬は格別に明るい世界となる。

 しかし、明るい世界は、普段、あまり気がつかない物を際立たせる。一つはコンクリート製の電柱である。あの無機質の灰色の固まりが、遠景の林を分断し、明るい空を狭くする。知勝院庫裏(ちしょういんくり)を造るときに、電柱を迂回し、電線が空を分断して景観を壊すことのないように、費用を負担してカラー電柱にした。周囲の木々にとけ込むようにとの配慮からである。本来なら地中に埋めたいのだが、電カ法でコンクリート製の電柱を立てるようにしているとのこと。雪害が多い地方は、地価が安い。したがって景観と災害対策からも地下埋設を出来るだけ推進すべきだが、どうも政治は建設、土建業者の都合ばかりしか考えず、美しい日本をずだずたにして構わないようだ。

 また、知勝院近くには、ある新興宗教の外郭団体が立てたホタルに関する看板が風雨にさらされ景観を台無しにしている。この団体はホタルに関する運動をしていることをPRしたいのだろうが、ホタルの一生を図解した看板が何の役に立つのだろうか。ホタルを増やすなら、水質浄化とカワニナの住みやすい環境をつくることがまず第一であろう。

 政治と宗教団体、いずれもが長期的、根本的な問題解決に向かわず、口先の利益とPRしか考えない。

 アレックス・カーは「韓非子」の「鬼魅(きみ)最も易(やす)し」の故事(斉王が絵を良くする者に、描くのに難(むつ)しいものと易(やす)きものをたずねた。すると絵師は、イヌや馬は人間がよく知っているので書きにくく、鬼魅即ち妖怪のたぐいは目の前に見えていないので描きやすいと答えた)を引き、官僚は「鬼」(豪華なモニュメント)ばかりをつくり、「犬」(送電線や電話線の埋設、下水道の埋設、高品質の公立病院や教育機関・・・)には手をつけないと言う。(講談社  アレックス・カー著 「犬と鬼−知られざる日本の肖像」より)

 ホタルが大事なら、看板を立てる(鬼を描く行為)よりホタルが棲む環境改善(犬を描く行為)を実践すべきであろう。

 私たちは見慣れた景観をもう一度見直すべきである。知勝院の活動は、「犬」を描くことにつきると言えよう。



樹木葬通信 2007年3月5日発行 VOL36より




長倉山 知勝院
〒021-0102 岩手県一関市萩荘字栃倉73-193