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春の息吹


 住職 干坂げんぽう

 月の史上稀な暖冬。春は一体どうなるのだろうかと危ぶまれた。


祥雲寺散策で出会ったリス
  しかし、三月、四月の寒さは山野草にかえって春近しを感じさせたようである。このような気候で教えられたのは、「休眠打破」(きゅうみんだは)という気象用語ではなかったか。

 ソメイヨシノの開花が九州で関東より大分遅くなったのは、冬を感じさせる寒さが九州にはなかったからと言う。

 祥雲寺の名物、枝垂(した)れのシキザクラは、十月末から十二月初めまで秋の部の花を咲かせ、通常は一月から三月まで休眠し、四月早々、他の桜に先んじて春を知らせてくれる。

 ところが今年は一月から休むことなく咲き続けた。この異常さは、「休眠打破」に寒さが必要なことを痛感させた。

 樹木葬墓地もあまりの雪の少なさに、喜ぶより不安感が募っていた。そんな矢先、春彼岸頃になり、雪が降り出した。結局、お山開き(墓地を案内出来るようになる日)の清明節(四月五日)は、例年と同じように、所々に雪が残る情景となった。

 この雪のせいで、芽を大きく膨らませていたシュンランもびっくりしたのか、開花を遅らせた。ショウジョウバカマもほぼ例年通り紫と白の競演をしてくれた。

 禅では、寒さ厳しい時に咲く梅は悟りの世界を象徴する。また、雪の季節にも青々とした松、竹は永遠の真理を象徴するものとして珍重される。

 「厳しさ」がない世界は、仏典では六道輪 廻の「天」、四大洲(人間の住む洲は南(なん)せんぶだいとされる)の一つ北倶慮(ほっくる)州などが挙げられる。どちらの世界も寒暑がなく安らかに住んでいるが、理想的境地「解脱」(げだつ)には至らない。

 まして、天人は、死に際しては「天人五衰(てんにんごすい)」という人間以上の苦しみを受けるという。季節が循環する風土は得難い。それと同様、苦楽が日常的に繰り返される娑婆(しゃば)世界も、「苦」があるから、「風流」を感じ取れるのであろう。

墓地入口付近の白と紫のショウジョウバカマ

 まさに自然の恵みに感謝を捧げたくなる春。世人はこぞってソメイヨシノを愛(め)でている。その喧喋(けんそう)をよそに、私は口グハウス悠兮庵の林を散策する。

 しのふる雨は、着実に大地を湿らせニッコウキスゲを次々と発芽させている。日々伸びゆくその薄緑は日光、雨、大地とが織りなす命の交響曲である。




樹木葬通信 2007年5月15日発行 VOL37より




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