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ため池浚渫(しゅんせつ)に思う


 住職 干坂げんぽう

 今年の春は、本当に自然を楽しむことが出来た。

 ログハウス悠分庵(ゆうけいあん)の自然体験研修林はヤマツツジの花の競演で、訪れた誰をも感動の渦に巻き込んだ。その素晴らしさは十年にわたる荒れた林との格闘の歴史がもたらしたといえる。

 十五年前、現在、四阿(あずまや)がある付近より北側の土地を購入したときには、付近全てが欝蒼(うっそう)とした林だったが、隣接する林にヤマツツジが多いことは知っていた。しかし、そこを購入した後も、すぐに手入れをすることが出来なかった。墓地の整備に人手を取られていたからである。

 転機は五年前の秋研修に訪れた。初めての試みとあって、参加者は六人と少なかったが、ススキに負けそうになっている二ッコウキスゲを助けるために、ススキの刈り払いと撤去の作業をして頂いた。その後、ニッコウキスゲの群落は見事に復活した。

 この経験をふまえ、翌年の春研修から、ヤマツツジの多い所に蔓延っていたハイイヌツゲを抜くことを皆さんにお願いした。根気のいる仕事だが、二十数名がねばり強く抜き、翌年も続けたところほとんどを退治出来た。同時に間伐もし、たまっていた枯れ葉の除去も行った。それから三年後、ヤマツツジは一斉に春を謳歌するように咲き誇ったのである。

 自然の回復は時間がかかるが、着実に進行する。知勝院の放棄されていた棚田に水を張ったところ、少しずつへイケボタルが増えてきたのも同様の現象と言えよう。水辺空間は生物が豊富なので、その保全には最も力を注がなくてはならない。そのためには、ため池の整備もしなくてはならない。しかし、休耕田以上にその手入れは大変なので、今まで実施出来ないできた。ところが、今年は春研修と並行して鷲谷研の調査もあるので、池を干してどのような生き物がいるか調べようということになった。

ため池でキンブナを救助する様子

  作られてから五十〜六十年は経ったであろうため池は一度も手入れがされなかったらしい。一面がヒルムシロで、ほんのわずかジュンサイが生き延びているという水面であった。土手を切って水を干したが、全く生き物の種類が少ない。キンブナが優占種で、捕獲したもので二百匹以上、ヨシノボリが約三十匹、ニゴイが一匹、他にガムシが数匹、ミズカマキリが約二十匹、ギンヤンマのヤゴが数匹といった具合であった。ヌマエビもいない本当に貧弱な生態系というべきで、捕獲にあたった干葉善彦氏も嘆いていた。

 この情況はスギが密集し日光が林床に届かず、スギの葉が一面に厚く積もっていた十年前の墓地に似ている。しかし、間伐してスギの葉を撤去したところ、たちまち山野草が蘇ってきた。日照は眠っていた種子を呼び覚ますカがあることが分かる。

 ため池の底から立ち伸びるヒルムシロは、まさに放棄されていた人エ林のスギと同じような存在といえる。今回は、ヒルムシロをほとんど撤去したので、ため池の底に眠っている色々な水草の種子が日光を浴びることによって復活してくるだろう。

 研修林のヤマツツジは日光を十分に浴びるようになって三年で花を楽しませてくれた。ため池はどのような経過で自然の復活を見せてくれるのだろうか。



樹木葬通信 2008年5月20日発行 VOL43より




長倉山 知勝院
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